Vixen の科学情報誌 So-TEN-Ken(ソウテンケン) WEB版

素敵な星夜の神話(ストーリー)
はくちょう座と、ブラックホールの姿を明らかにする「X-1」

語り継がれる長い歴史の中で、神話は少しずつ形を変えてきました。
例えば夏の夜空に はばたく はくちょう座では、大恋愛のお話と友情物語の2つが主に語られています。
今回はちょっとした虚栄心と不運、そして友情の物語の方をお話ししましょう。

画像:はくちょう座

<はくちょう座>

太陽神の馬車、暴走する!!

太陽神ヘーリオスの息子であるパエトーンは父を誇りに思っていました。しかし友達に「お前なんかがヘーリオスの息子であるはずがない」と疑われたことがくやしくて、「お父さんの太陽の馬車を貸して」と父にお願いします。それに乗ってヘーリオスの息子であることを証明しようと思ったのです。
ヘーリオスは渋々、許しますが、パエトーンは慣れない操縦に四苦八苦。馬たちがなかなか言うことを聞いてくれません。馬車は街中を暴走し、それが太陽神の馬車であるために、あちこちに火災を起こしてしまいます。
その様子を天から見ていた大神ゼウスは、被害を食い止めるために、やむを得ずパエトーンを馬車ごと雷で撃ち殺します。撃たれたパエトーンは、エリダヌス川へまっさかさま。
それを見ていたのがパエトーンの親友であるキュクノスです。川に入り、必死にパエトーンの姿を探します。あまりにもの嘆き悲しみように、神々はパエトーンを白鳥に変えて天にあげました。それがはくちょう座です。

またもう1つのはくちょう座の神話、大恋愛ストーリーの方では、はくちょう座は大神ゼウスの姿だと言われています。興味がある方は検索してみてください。

※神話には諸説あります。

解明の続くブラックホール、はくちょう座X-1

画像:はくちょう座

<はくちょう座X-1>
天文学者による想像を描いたイラスト。ブラックホールが青色超巨星HD 226868から物質をはぎとって、100万度にもなる「降着円盤[こうちゃくえんばん]」を作っている。© NASA/CXC/M.Weiss

「はくちょう座X-1[エックス ワン]」は、ブラックホールに関係するX線源(※1)として、世界で初めて見つかったことで知られています。
宇宙のX線研究が始まってまもなく、1964年にはくちょう座X-1は発見されますが、当時はまだ正体が明らかにされませんでした。その後、目に見える光は発見できなかったものの、すぐ近くに青色超巨星「HD 226868」が見つかり、この2つが連星(※2)であることがわかります。
やがてこのX線源はとてもコンパクトであるにもかかわらず、太陽の21倍もの質量を持つと推測されたことなどから、これはブラックホールに違いない! と結論づけられました。
このはくちょう座X-1は、現在も世界で研究が続けられていて、2024年夏には日本の大学教授らによって、ブラックホールの近くで起きている構造変化を裏付ける観測が行われました。
今後も、ブラックホールのドラマティックな姿を謎解いていく はくちょう座X-1のニュースに注目! です。

※1...X線を放射している天体。
※2...2つの天体が重力で結びついていること。