Vixen の科学情報誌 So-TEN-Ken(ソウテンケン) WEB版

素敵な星夜の神話(ストーリー)
おとめ座とブラックホール

夜空に描かれた星座には、古[いにしえ]から人々に語り継がれてきた神話があります。
そして星への憧れは探求する心も育み、次々と宇宙での新発見を生み出しています。
今回はおとめ座の物語と、世界を興奮させた快挙を紹介します。

画像:おとめ座

<おとめ座>

冥界か地上か...、運命を分けた4粒のザクロ

おとめ座の形は麦の穂を持つ女性の姿。農耕の女神デーメテールとも正義の女神アストライアーとも言われています。ここではデーメテールのお話をしましょう。
デーメテールにはペルセポネーという名の美しい娘がいました。ある日、ペルセポネーが野原で花を摘んでいると突然、地中から冥界の王ハーデースが現れます。かねてからペルセポネーに思いを寄せていたハーデースは彼女を冥界へ連れ去ってしまいます。
娘を奪われたデーメテールは悲しみのあまり、洞窟に身を隠してしまいました。農耕の女神が姿を消した地上では作物が実らなくなり、その惨状を見かねた大神ゼウスは、ペルセポネーを母のもとへ返すようハーデースに命じます。ハーデースは渋々応じますが、ペルセポネーにザクロの実を渡して送り出しました。
冥界の食べ物を口にすると、一生、冥界で暮らさなければいけないことを知らないペルセポネーは、道すがらザクロを食べてしまいます。
娘がやっと帰り、喜んだデーメテールは洞窟から出て、地上は再び実り豊かな世界に戻ります。
しかし冥界のザクロを食べてしまったペルセポネーは冥界へ戻らなければなりません。ところが幸いに食べたのは4粒だけだったので、1年のうち4か月だけ冥界で暮らせばいいことになりました。その4か月の間、母デーメテールは洞窟にこもり、作物は実らず、この期間が「冬」と呼ばれるようになりました。

※神話には諸説あります。

世界初! 実際の画像で見るブラックホール

画像:

<M87のブラックホール シャドウ>
中央の黒い部分がブラックホールで、オレンジ色に光っているのは周囲で渦を巻いている高温のガス。©EHT Collaboration(2019年撮影)

おとめ座にはM87という楕円銀河がありますが、これが世界中の天文研究者の熱い視線を集め続け、ついに2019年に世界で初めてM87の中心にあるブラックホール(シャドウ)の撮影に成功しました。ただしブラックホールは宇宙で最も早い光でさえ脱出することができないほど重力が強い天体。光を出さないので、撮影しても写りません。そこで発想を変え、ブラックホールの“影”を撮影することにしたのです。
おとめ座にブラックホールだなんて、ペルセポネーが行き来する冥界とイメージが重なりませんか?
ブラックホールはそれまで理論上の存在でしたが、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT ※1)によって初めて撮影に成功し、画像で見られたことは、まさに世界が興奮するニュースでした。
その後2022年には、天の川銀河の中心、いて座にあるブラックホール シャドウの撮影にも成功しています。今後、解明されるブラックホールのニュースに目が離せませんね。

※1...世界各地の電波望遠鏡をつないで、地球規模の大きな望遠鏡として観測するプロジェクト。その解像度は人間の視力に例えると、約300万に相当します。