
みなさまからご応募いただいた441点の作品の中から入賞作品を選出いたしました。
厳正な審査会を経て、グランプリと各賞が決定いたしました。
ビクセン主催
第6回「星空フォトコンテスト 2025 〜それぞれの宙を見上げて〜」
審査員の紹介

大西浩次氏
博士(理学)。日本星景写真協会理事、国際天文学連合(IAU)会員、日本天文学会、日本天文教育普及研究会ほか。第4回田淵行男賞入賞。研究分野は重力レンズと系外惑星探査。地球と宇宙と人のつながりをテーマに星景写真を撮影。毎日小学生新聞「ガリレオ博士の天体観測図鑑」隔週土曜連載中。

北山輝泰氏
プロカメラマン。日本大学芸術学部写真学科卒業。天体望遠鏡メーカーで営業として勤務後、星景写真家として独立。天文雑誌のライターをしながら、全国で写真講師の仕事を行う。星景写真を始めとした夜の被写体の撮影について、座学・実習を通し学べる「ナイトフォトツアーズ」を運営中。
大西浩次氏による総評
第6回「それぞれの宙(そら)を見上げて」に、多くのご応募をいただき、誠にありがとうございました。今回も審査員一同、長い時間をかけてすべての作品を拝見しました。写真そのものだけでなく、応募時に添えられた「それぞれの想い(作品コメント)」にも目を通し、作者がどのような気持ちで宙を見上げ、その瞬間を切り取ったのかを想像しながら選考を行っています。
本コンテストが大切にしているのは、「うまく撮れているか」だけではありません。宙を見上げたときに何を感じ、なぜシャッターを切ったのか。その想いが、画面の中から自然に伝わってくるかどうかを、私たちは何よりも重視しています。撮影技術はもちろん重要ですが、それはあくまで想いを形にするための手段であり、目的そのものではありません。
第6回は応募数こそやや減少しましたが、星景部門を中心に作品のレベルは非常に高く、受賞に至らなかった作品の中にも、強い魅力を持つものが数多く見られました。特に、同じ場所や同じ被写体を扱った作品同士では、構図や露出といった技術差以上に、「何を伝えたいのか」という視点の違いが評価を分ける結果となりました。今回のグランプリ作品は、大地と宇宙の鼓動、そして時間の流れを感じさせる、表現力豊かな一作です。カメラやセンサーの進化により、これまで静止画では捉えにくかった動きや変化を、星景写真として表現できる時代になりました。私たちは、そうした技術の進歩そのものよりも、それを通してどのような「宙との向き合い方」が生まれてくるのかに、大きな期待を寄せています。
また、個別講評でも触れていますが、背景となる星空と手前の風景との関係性を丁寧に捉え、「想い」を的確に表現した作品が多く選ばれました。アンダー18部門の橋本旭玄さんの作品からは、若い世代ならではの柔軟で自由な感性が感じられ、審査員一同、強い印象を受けました。前回のグランプリ作品に続き、次の時代を担う表現の芽を感じています。なお、今年は動画部門からの受賞はありませんでしたが、動画は時間や空気感を伝えるうえで、大きな可能性を秘めた表現手段です。次回以降、星空と向き合う新たな試みに挑戦した作品が生まれてくることを期待しています。さらに、スマートフォンカメラによる作品も選出されました。特別な機材の有無にかかわらず、「宙を見上げる」という体験そのものが表現につながっている点は、本コンテストのあり方を象徴しているように感じられます。
このコンテストが、作品を競い合う場であると同時に、それぞれが宙と向き合った時間や想いを共有する場であり続けることを、私たちは願っています。これからも多くの方が宙を見上げ、その瞬間に感じた何かを、自由な形で表現してくださることを、審査員一同、心より期待しています。
北山輝泰氏による総評
ビクセン主催の星空フォトコンテスト「それぞれの宙を見上げて」は、今回で第6回目を迎えました。今回も審査を担当させていただきましたが、回を重ねるごとに応募作品の表現の幅や完成度が高まり、皆様の創意工夫にあらためて感銘を受けています。
異常気象が続く昨今、撮影の計画を立てても天候に恵まれず、思うようにシャッターを切れない状況も少なくありません。そのような厳しい条件の中で生み出されたひとつひとつの貴重な作品をご応募いただいたことに、心より感謝申し上げます。
今回の審査においても、私たちが大切にした視点はこれまでと変わらず、「それぞれの宙を見上げて」というテーマそのものです。星空の下で作者が何を感じ、何を想いながら写真や動画を撮影したのか。その背景や物語が作品を通して伝わってくるかどうか。そしてその想いが確かな技術に裏打ちされ、表現として成立しているかという点を重視して審査を行いました。
「それぞれの宙を見上げて」というテーマは、一見すると抽象的ですが、その解釈の自由度こそが本コンテストの魅力であり、同時に難しさでもあります。同じ夜空を見上げていても、機材を構える場所や視線の向け方、さらには作者自身の心のあり方によって、見えてくる宙は決して同じではありません。だからこそ、そこに写し出される表現には自然と個性が宿り、ほかの誰とも重ならない、その人だけの作品が生まれるのだと感じています。
今回の応募作品からは、日常の中でふと立ち止まって見上げた宙、特別な旅先で出会った宙、そして長年通い続けた場所でしか捉えられない宙など、まさに「それぞれ」の視点が感じられました。その多様性が、このコンテストを回を重ねるごとに豊かなものにしていると感じています。
星空の撮影は、決して思い通りにいくものではなく、試行錯誤や失敗の積み重ねの中で、ようやく一枚の作品にたどり着く世界です。だからこそ、その一枚には、撮影者自身の経験や感情が自然と刻み込まれます。今回ご応募いただいたすべての作品には、それぞれにかけがえのない価値があり、審査員として非常に悩ましく、同時に幸せな時間を過ごさせていただきました。ぜひこれからも、ご自身だけの宙を見上げ続け、その想いを作品として表現し、本コンテストに挑戦していただければ幸いです。
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※写真の情報は応募者にご記入いただいた内容を元に記載しています。
グランプリ
最優秀賞(星景写真部門)
「父と娘の夏休み」
お名前石川 了輔 さん部門星景写真部門撮影年月日2025年6月25日撮影場所沖縄県小浜島カメラCanon EOS 5D MarkIVレンズTAMRON SP 24-70mm F/2.8 Di VC USD G2絞りF2.8シャッタースピード25秒ISO感度5000使用機材ビクセン ポラリエ大西浩次氏によるコメント
沖縄県・八重山諸島の小浜島で、6月末の天文薄明が終わる直前に撮影された、南の水平線ぎりぎりに浮かぶ南十字星が強く印象に残る作品です。撮影は、小さな娘さんとお父さん、二人きりで迎えた初めての星空観察の記念とのこと。夕暮れのサンゴ礁の砂浜で、日が沈むのを待ちながら一番星を探していた情景が自然と目に浮かびます。薄明が終わるころ、南の超低空に南十字星を見つけた、その瞬間を切り取った記念写真なのでしょう。
このとき、南十字星の左側には「ポインター」と呼ばれるケンタウルス座の二つの1等星、α星とβ星も見えていたはずで、南半球の星空の入口に立つような、特別な夜だったことがうかがえます。
撮影条件を考えると、南十字星はすでに南中を過ぎ、α星アクルックスの高度は0.1度以下という極めて厳しい状況でしたが、ビクセンのポラリエによる25秒のガイド撮影によって、この貴重な瞬間を確実に捉えています。
作者は「次は妻と、先日生まれた長男も一緒に4人で撮影したい」と語っており、星空を見上げるひとときに込められた家族の「想い」が、コンテストの趣旨にふさわしく素直に伝わってくる作品です。娘にとっての初めての星空、そして家族4人で見上げる未来の星空へと、見る者の想像をやさしく広げてくれます。
最優秀賞(天体写真部門)
「Sh2-91 天空の水簾」
お名前飯野 智 さん部門天体写真部門撮影年月日2025年6月17日撮影場所千葉県大多喜町平沢ダム、勝浦市勝浦ダム鏡筒Askar FRA600(0.7xレデューサー使用)カメラZWO ASI2600MM赤道儀iOptron CEM70シャッタースピード300秒フィルターAntlia 3nm Hα, Antlia 3nm OIII北山輝泰氏によるコメント
はくちょう座の超新星残骸「SH2-91」をモノクロCMOSカメラと Hα・OIII ナローバンドフィルターを用いて長時間にわたり撮影し、その微細な構造と階調を極めて高い完成度で描き出した一枚です。総露光時間約16時間という豊富なデータ量に加え、2台同架による異なるフィルターでの同時撮影という高度な撮影手法が、安定したデータ取得を可能にしています。
特筆すべきは、PixInsight を用いたサブフレームの下処理からスタック、ストレッチに至るまでの処理精度の高さです。淡く広がるフィラメント構造を破綻なく引き出しながら、ノイズを巧みに抑制し、ガスの重なりや流れを自然な階調で表現しています。Sh2-91は非常に淡く、コントラストが低いため平坦な描写になりやすい天体ですが、本作品ではHαとOIIIの情報が明確に整理され、立体感のある描写へと昇華されています。
さらに、最終的な色調設計によって星雲の輪郭や質感が丁寧に整えられ、「天空の水簾」というタイトルが示す、天上から静かに流れ落ちる光の表情を鮮やかに想起させます。高度な撮影技術とデータ処理、そして明確な表現意図が高次元で結実した作品として、天体写真部門の最優秀賞にふさわしい一枚と評価しました。
最優秀賞(アンダー18)
「生命」
お名前橋本 旭玄 さん部門アンダー18部門撮影年月日2025年10月24日撮影場所沖縄県今帰仁村平敷パークカメラNIKON D750レンズTAMRON SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD絞りF2.8シャッタースピード20秒ISO感度2500大西浩次氏によるコメント
秋の夜、オリオン座やシリウスが昇り、深夜の公園を包む静けさの中で撮影された一枚です。作者が「ふと目の前の木々が、生き物のように立ち上がって見えました」と語るように、星々の淡い光に照らされた木々のシルエットが、非常に印象的な存在感を放っています。
左に大きく立つ木の影は、大きな頭と開いた口、がっしりとした胴体、差し出された枝を前足のように思わせ、まるでティラノサウルスの姿を想起させます。一方、右下の木の影は、低く構えた体に角とフリル(えり飾り)を備えたトリケラトプスのようにも見えます。いずれも白亜紀後期、恐竜時代の終わりを生きた代表的な恐竜たちであり、二つの影が向かい合う様子は、まるで言葉を交わしているかのようです。作者が述べる「自分より大きな存在に向かって勇敢に立ち向かう生き物」という印象も、この構図から自然に伝わってきます。
約6,600万年前、白亜紀末の大量絶滅を迎える直前、もし彼らが会話をしていたとしたら──そんな想像までかき立てるのは、レタッチであえてシャドウを深く落とし、木々の存在感を強調しつつ、星の輝きとの対比を際立たせている表現の力によるものでしょう。
星空が単なる背景ではなく、空間や時間の象徴として機能し、風景を「見立て」ることで物語が立ち上がっています。
若い感性ならではの自由な想像力と、風景を通して物語を語ろうとする姿勢が光る作品であり、今後のさらなる表現の深化が大いに期待されます。なお、星空撮影という点では、今後は振動を極力抑える工夫にも取り組むことで、作品の完成度はさらに高まるでしょう。
優秀賞
「暁の天の川」
お名前岩﨑 暁生 さん部門星景写真部門撮影年月日2025年3月2日撮影場所山梨県南巨摩郡身延町根子精進峠(精進湖)カメラNIKON Z6IIレンズSIGMA Art 24㎜ F1.4絞りF2.0シャッタースピード13秒ISO感度2500北山輝泰氏によるコメント
夜明け前のわずかな時間に現れる天の川と富士山を、精進湖越しの静かな風景と共に捉えた作品です。霧に包まれた湖面や街明かり、山の陰影が重なり合うことで奥行きとスケール感が生まれ、雄大な自然の中に人の営みが自然に溶け込んでいます。
天の川は強く主張することなく、黎明の刻の空の一部として静かに描かれ、夜と朝の境界にしか見られない優しい色合いの夜空がありのままに表現されています。
また本作品は、作者自身の富士登山への決意と深く結び付いた一枚でもあります。この写真が行動への後押しとなり、実際に富士山へ登頂されたというエピソードは、「それぞれの宙を見上げて」というテーマを、誠実かつ個人的な視点で体現しています。風景と心情が静かに重なり合った点を高く評価しました。
優秀賞
「深宇宙2250万光年からの光彩 花火銀河NGC6946」
お名前橋野 司 さん部門天体写真部門撮影年月日2024年6月5日撮影場所福島県楢葉町木戸ダム 他鏡筒笠井トレーディング GS200RC赤道儀ビクセン AXJ赤道儀フィルターIDAS HEUIB大西浩次氏によるコメント
約2250万光年彼方、ケフェウス座とはくちょう座の境界付近に位置する中規模の渦巻銀河 NGC 6946。「花火銀河(ファイアワークス銀河)」の名で知られるこの銀河を、非常にディープかつ高精細に捉えた、美しさと情報量を兼ね備えた作品です。
NGC 6946 が花火銀河と呼ばれる理由は、その外見ではなく、過去100年あまりの間に10個以上もの超新星が発見されてきたという、きわめて高い活動性にあります。本作では、作者コメントにもある通り、明るい部分を過度に飽和させることなく、同時に淡い構造を丁寧に引き出すことで、透明感を失わない絶妙な階調表現が実現されています。
その結果、渦巻腕に沿って分布する多数の H II 領域(星形成領域)が明瞭に描写され、この銀河が現在も活発な星形成を続けていることが、視覚的に説得力をもって伝わってきます。単に美しいだけでなく、銀河の物理的特性そのものを画面から読み取れる点が、本作の大きな魅力です。
高度な撮影技術と緻密な画像処理によって、深宇宙の活動を静かに、しかし確かに浮かび上がらせた本作は、鑑賞作品としての完成度にとどまらず、将来的な超新星発見の可能性さえ想起させる一枚と言えるでしょう。深宇宙写真が持つ「美」と「科学性」の両立を、見事に体現した優秀賞作品です。
優秀賞
「Sh2-240」
お名前松本 一樹 さん部門天体写真部門撮影年月日2025年11月25日撮影場所北海道美瑛町十勝岳望岳台他鏡筒William Optics RedCat 51 II-UカメラZWO ASI 294MC Pro赤道儀ZWO AM3シャッタースピード300フィルターAsker ColorMagic北山輝泰氏によるコメント
おうし座からぎょしゃ座付近にある超新星残骸「Sh2-240」をナローバンド撮影によって捉え、OIII の青と Hα の赤が複雑に絡み合う構造を緻密かつ大胆に描き出した一枚です。
Sh2-240 は別名「スパゲッティ星雲」と呼ばれるように、フィラメント構造が複雑に絡み合っているのが特徴ですが、非常に淡い天体であり、高度な撮影技術と画像処理技術を求められます。本作品では Color Magic filter を用いた撮影と強調処理により、ガスの細かな絡み合いが明確に浮かび上がっています。単に色を強調するのではなく、構造を整理しながら限界まで引き出している点が大きな特徴です。
特に、OIII の淡い広がりと Hα のフィラメントが破綻することなく共存しており、強調処理を施しながらも階調が丁寧に保たれています。対象の持つ繊細さと力強さを両立させた高度な表現として評価し、天体写真部門の優秀賞に選出しました。
優秀賞
「馬が奏でる星夜」
お名前飛田 昌代 さん部門星景写真部門撮影年月日2025年9月20日撮影場所宮崎県串間市カメラSONY α7IIIレンズSONY FE20mm F1.8G絞りF2.2シャッタースピード15秒ISO感度8000フィルターLEEソフトフィルター No.1北山輝泰氏によるコメント
満天の星の下で静かに草を食む馬たちの姿と、雲間から見える天の川を捉えた作品です。宮崎県・都井岬の特徴的な景観である草原の起伏や遠くに広がる海、点在する灯りが画面に奥行きを与え、夜の大地に流れる時間の気配が丁寧に描かれています。
雲間から現れる天の川は無理に強調処理されたものではなく、自然な要素として画面に写り込んでいる点が印象的です。主役である馬の存在感と星空とのバランスが心地よく、静かな調和が感じられます。
また、作者コメントでは動物に配慮しながら撮影を行ったと明記されておりましたが、自然な光のみで描かれた本作品の空気感が居心地よく、作者がその場で過ごした時間や想いが優しいトーンで表現されています。「それぞれの宙を見上げて」というテーマを、誠実な視点で表現した作品として高く評価し、優秀賞に選出しました。
優秀賞
「登山者と共に見上げた赤銅の月」
お名前長谷 直紀 さん部門星景写真部門撮影年月日2025年9月8日撮影場所山梨県富士山(富士吉田ルート)カメラOM SYSTEM OM-1レンズOM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO絞り5.6シャッタースピード2秒ISO感度1600北山輝泰氏によるコメント
皆既月食という希少な天文現象を、日本最高峰・富士山の登山道の途上で捉えた作品です。赤銅色へと変化していく月の姿が、登山者たちのシルエットと重なり合うことで、この瞬間を共有する人間の存在が強く印象づけられています。
息を切らしながら頂上を目指す過程の中で、刻一刻と進む月食の進行。その二つの時間が同時に流れることで、作品には単なる記録を超えた臨場感と緊張感が宿っています。思わず足を止めて見上げてしまうほど印象的な月は夜空の主役として描かれ、厳しい環境の中で見上げるからこそ、その時の記憶がより深く心に刻まれます。
また、夜空を見上げる登山者の姿を画面に取り入れたことで、「それぞれの宙を見上げて」というテーマが明確に表現されています。特別な場所で、特別な瞬間を多くの人と共に見上げた体験が素直に伝わる作品として高く評価しました。
優秀賞
「The Fragile Night」
お名前河内 俊介 さん部門星景写真部門撮影年月日2025年6月27日撮影場所北海道苫小牧市樽前山カメラSONY α7IIIレンズSONY FE14mm F1.8 GM絞りF1.8シャッタースピード8秒ISO感度8000大西浩次氏によるコメント
北海道・樽前山にて、夏を代表する高山植物として知られる「イワブクロ」を大きく捉え、雲海の上に連なる山並みの彼方には、初夏に南中するさそり座が玉ボケとなって色彩豊かに配されている。
樽前山の「イワブクロ」は「タルマエソウ」と呼ばれることの多い。
背景の「さそり座」の星空は、初夏の遅い夕暮れから夜へと移ろう時刻を示し、作品に「時間」を暗示させる。一方、火山由来の荒々しい山岳景観は、この場所ならではの「空間」を明確に伝える。その前景に、壊れやすく、はかない存在である(=Fragile)高山植物が静かに咲く構図は、作品タイトル「The Fragile Night」と見事に呼応している。一期一会の光景を見出す感性と、それを確かな技術で写し取る力が、作者の「想い」を観る者へと自然に伝える、完成度の高い作品である。
優秀賞
「オリオン、雪嶺へ降り立つ」
お名前納堂 幸雄 さん部門星景写真部門撮影年月日2024年11月9日撮影場所群馬県みなかみ町マチガ沢カメラSONY ILCE-7CM2レンズSIGMA Art 28-45mm F1.8 DG DN絞りF1.8シャッタースピード4秒ISO感度16000大西浩次氏によるコメント
群馬県みなかみ町、谷川岳東側のマチガ沢から見上げた、雪をまとった大岩壁。その雄大な山容に、11月の夜明け前、オリオン座が沈みゆく瞬間を捉えた作品です。
ソフトフィルターによって星の存在感を高めつつ、RAW現像の段階でシャープネスを巧みに調整し、谷川岳の岩壁を力強く、かつシャープに描写しています。オリオン座のリゲルが、ちょうど稜線にかかる一瞬を、超高感度・短時間露光のワンショットで確実に写し止めた点は、高い撮影技術と判断力を感じさせます。
一方で、拡大するとノイズ処理の影響と思われる特有のパターンがやや目につく点は惜しまれます。ノイズリダクションをもう少し控えめにすることで、質感がさらに自然になる可能性もあるでしょう。
とはいえ、この場所、この時間、この一瞬を逃さず切り取った作者の行動力と表現力が、本作を強く印象づける一枚にしています。
優秀賞
「競演」
お名前高椋 陽一 さん部門星景写真部門撮影年月日2024年2月17日撮影場所熊本県阿蘇市阿蘇 杵島岳山頂カメラSONY α7IIIレンズSONY FE14mm F1.8GM絞りF1.8シャッタースピード20秒ISO感度3200大西浩次氏によるコメント
2月の阿蘇山・杵島岳山頂から、雲海に浮かぶ山並み、中岳第一火口の火映、そして夜明けの天の川という、三つの要素が重なり合う「競演」を見事に捉えた作品です。星景写真では、被写体そのものの魅力に加え、季節、時間、場所の選択、さらには雲や天候といった偶然性をいかに味方につけられるかが大きな鍵となります。まさに一期一会の世界と言えるでしょう。
作者は、この瞬間を一度きりの偶然に委ねたのではなく、これまで何度もこのタイミングを狙い、構想を練り続けてきたに違いありません。そこへ雲海という自然の演出が加わり、その好機を確実に作品として結実させています。なお、作品中で噴火のように見える赤い光は、実際には中岳第一火口の「火映」です。また、夜明けの空に天の川が写真のように斜めにかかるのは、2月中旬から下旬にかけてのごく短い期間に限られます。こうした厳しい条件を理解した上で構図を組み立て、粘り強く撮影を続けてきた作者の構想力と継続力が、この完成度の高い一枚を生み出したと言えるでしょう。
優秀賞
「宙の余白」
お名前沖田 基佳 さん部門星景写真部門撮影年月日2025年8月24日撮影場所ニュージーランドテカポ湖カメラiPhone16Pro大西浩次氏によるコメント
ニュージーランド南島、アオラキ・マッケンジー星空保護区にあるテカポで、南天の星空をiPhone 16 Proで素直に捉えた印象的な作品です。スマートフォンによる星空撮影は、依然として専用のデジタルカメラに及ばない部分もありますが、近年はソフトウェア処理の進化によって、その表現力が急速に高まっています。本作からも、星空を記録する道具としてのスマートフォンの可能性が、確実に広がっていることが感じられます。
もう一つの大きな特性は、軽量で取り回しが良く、撮影への心理的ハードルが低い点でしょう。ローアングルから南天の天の川を見上げる二人の人物を配したこの構図は、まさにスマートフォンだからこそ、自然体で素早く切り取ることができた場面に思えます。
作者は「忙しい毎日が続く中、リフレッシュを兼ねて」訪れた旅先で、この光景に出会ったといいます。計算し尽くした星景写真というよりも、その場の空気感や広がる宙(そら)を、そのまま受け止める感覚が画面に残されています。星空の壮大さと、人の存在が生む「余白」の美しさが、静かに響く一枚と言えるでしょう。
優秀賞
「くらげ星雲」
お名前池田 光希 さん部門天体写真部門撮影年月日2025年11月21日撮影場所長野県南牧村野辺山鏡筒William Optics RedCat51カメラZWO ASI533MC Pro赤道儀ケンコー スカイエクスプローラー SEII-JフィルターZWO UV/IRカットフィルター北山輝泰氏によるコメント
ふたご座付近にある超新星残骸、通称「くらげ星雲」とSh2-249を捉えた作品です。1枚あたり3分露光の写真を42枚スタックし、その複雑な構造と周囲に広がる淡いガス成分をバランスよく描き出しています。冬のHα天体でも特に人気の天体ではありますが、非常に淡いため多くの露光時間が必要であり、表現が難しい天体の一つです。本作品は、限られた露光時間の中で得られたデータを丁寧に積み重ね、星雲本体だけでなく、背景に広がる微細な階調まで破綻なく表現している点に、安定した撮影技術を感じました。
PixInsightを用いた画像処理も非常に的確で、BlurXTerminatorによる解像感の向上、NoiseXTerminatorによるノイズ抑制、そして、StarXTerminatorを活用した星雲構造の強調処理が見事です。単にコントラストを強めるのではなく、星雲の輪郭や内部構造を自然な階調の中で引き出している点が本作品の特長です。
赤く輝く星雲本体と周囲の空間との関係性が明瞭で、対象の持つ存在感と奥行きが過不足なく表現されています。撮影データと処理工程を的確に見極めた完成度の高い作品として評価し、天体写真部門の優秀賞に選出しました。
審査員賞
「インターステラー」
お名前石塚 佳子 さん部門星景写真部門撮影年月日2025年11月12日撮影場所北海道カメラNikon Z9レンズNikon NIKKOR Z 20mm f/1.8 S絞りF1.8シャッタースピード13秒ISO感度12800大西浩次氏によるコメント
太陽活動が活発化し、サイクル25の極大期に近づいた2024年には、大規模な磁気嵐が相次いで発生しました。北海道に限らず本州でも低緯度オーロラが観測されるなど、きわめて特異な状況が続き、この傾向は2026年頃まで継続する可能性も示唆されています。
とりわけ2024年11月には、3つの連続したフレア現象に伴うコロナ質量放出(CME)が地球方向に放出され、11月12日から13日にかけて大規模な磁気嵐が発生しました。
作者はこの磁気嵐の開始段階から撮影を行い、12日未明には、低緯度オーロラとしては極めて稀な、極域で見られるようなピラー状構造を伴う激しく変化するオーロラ現象を捉えることに成功しています。本作は、野付半島トドワラ付近からと思われる湿原の夜明け風景を前景に、ワンショットでその瞬間を的確に記録したものです。夜明けの空には北斗七星が昇り、時間の経過と天文現象が一枚の画面の中で交錯しています。
低緯度オーロラ特有の水平方向に広がるSAR(Stable Auroral Red)と、垂直方向に立ち上がるピラー構造が同時に写し込まれており、星景写真としての美しさに加え、現象の構造を明瞭に記録した点が高く評価されます。本作は、感動的な星景作品であると同時に、貴重な観測記録としてオーロラ研究にも寄与しうる、「市民科学」の視点を体現した一枚といえるでしょう。
審査員賞
「夢、夜空を駆ける」
お名前松尾 拓哉 さん部門星景写真部門撮影年月日2025年6月29日撮影場所鹿児島県南九州市番所鼻自然公園カメラSONY α7R VレンズSIGMA 24mmF1.8絞りF4.0シャッタースピード253ISO感度640北山輝泰氏によるコメント
鹿児島県種子島から打ち上がったH-ⅡAロケット50号機の軌跡と、夜空の星々の動きを一つのフレームに収めた作品です。ロケットの打ち上げ撮影は私自身も何度も経験がありますが、やり直しのきかない一瞬にすべてを懸ける緊張感があり、星景写真撮影とはまた異なる魅力と難しさがあります。
星々が描くゆったりとした時間の流れと、夜空を切り裂くロケットの光跡。その二つが同時に写し込まれることで、人類の営みと宇宙の悠久さが鮮やかな対比として浮かび上がります。
本作品は南九州市から開聞岳を取り入れて撮影されたものですが、ロケットの光跡と水面への反射、島影のシルエットという構図が画面全体に安定感をもたらし、露出や色味のバランスも巧みで作者の技術力の高さを感じました。
「それぞれの宙を見上げて」というテーマに対し、この作品からは、宇宙という大きな存在とそこへ挑み続ける人々の想いが交差する“宙”を、静かでありながら強い想いで見守った作者の気持ちが込められているのを強く感じました。その完成度を高く評価し、審査員賞に選出しました。

大西浩次氏によるコメント
アイスランドのゲイシール地熱地帯において、全天を覆うように出現したオーロラと、間欠泉の噴出という二つの自然現象が同時に織りなす光景を捉えた、圧倒的な存在感を放つ作品です。ゲイシール地熱地帯は、「間欠泉(geyser)」という言葉そのものの語源となった場所であり、地球内部のエネルギーが風景として直接立ち現れる、きわめて象徴的な舞台と言えるでしょう。
本作では、その間欠泉の噴出と、刻々と姿を変えるオーロラの動きを、高感度かつ短時間露光で的確に捉えています。噴き上がる蒸気の上空には北斗七星と北極星が確認でき、極地に近い高緯度地域での撮影であることが一目で伝わってきます。星々の配置は単なる背景にとどまらず、この場所ならではの地理的・天文学的条件を雄弁に物語っています。
そして何よりも本作の最大の魅力は、画面いっぱいに広がる、色彩豊かで躍動感に満ちたオーロラの表現です。太陽活動11年周期のピークという稀有なタイミングを的確に捉え、太陽の活動と地球の活動、その両者の鼓動が共鳴する一瞬を、一枚の写真として結実させています。宙から降り注ぐ光と、大地から立ち上るエネルギー。その狭間に立つ人間の視点を通して、宇宙と地球が連続した存在であることを実感させてくれる作品です。空と大地、両者の活動を全身で感じさせる、まさに本コンテストのグランプリにふさわしい一作と言えるでしょう。
北山輝泰氏によるコメント
アイスランドという大地のエネルギーに満ちた土地で、空と地上の活動が同時に呼応する瞬間を見事に捉えた一枚です。画面いっぱいに広がるオーロラは、単なる光の帯としてではなく、天から大地へと降り注ぐ“動き”として表現されており、その躍動感が強く印象に残ります。
注目すべき点は、オーロラの美しさだけにとどまらず、地上に噴き上がる間欠泉を画面に取り入れることで、作品タイトルにもあるように「空と大地」という二つの自然現象を一つのフレームに収めている点です。静止画でありながら轟音や熱気を感じ、現地で作者が感じ取ったであろう空気感が鮮明に伝わってきます。
また、広角構図によって星空の奥行きとスケール感が巧みに表現されており、オーロラの揺らぎと星々の静けさが美しい対比を生んでいます。技術的にも難易度の高い撮影条件でありながら、露出や色再現のバランスも秀逸で、自然の力強さと繊細さが上手く表現されています。
「それぞれの宙を見上げて」というテーマに対し、作者自身がその場に立ち、全身で宙と大地を感じ取った体験が、確かな技術とともに結実した作品であり、本コンテストのグランプリにふさわしい一枚と評価しました。