星空をもっと撮ろう!~ポラリエ・ステップアップキットが広げる星空写真の世界~

特設ページ

2017.07.25

開発担当者たちのこだわりと製品開発の裏舞台を、現場の声を交えながら、ポラリエ用ステップアップキットが広げる星空写真の世界をご紹介します。

2016年12月に発売されたビクセンの「ポラリエ用ステップアップキット」及び関連パーツは、「星景写真」での使用を目的としていたポラリエの撮影対象を大きく広げました。
標準レンズ~中望遠レンズで、地上を含めずに星空だけを広く撮影する「星空写真」。また、望遠レンズで天体をクローズアップ撮影する「天体写真」にまで範囲を広げ、ユーザーは星空雲台ポラリエを使って、更なるディープスカイの撮影が可能になったのです。

作例:夏の大三角


使用機材 FUJIFILM X-T2、XF18mm F2 R
VIXEN 星空雲台ポラリエ
撮影データ ISO1600,SS240秒、F3.6、WB:オート
ポラリエ星追尾モードで追尾撮影
RAW FILE CONVERTER EX2.0で画像処理
撮影 株式会社ビクセン 平井智

ビクセンでは、ポラリエを使った星空撮影の魅力を伝えるべく、以前から星空撮影の分野で評価の高かった、富士フイルムミラーレス一眼カメラ「Xシリーズ」とコラボレーション中。
何故、富士フイルム「Xシリーズ」は星空写真家の間で評価が高いのか?その謎に迫るため、ビクセンの星空写真家“ロール”が富士フイルム大宮事業所を訪問。光学・電子事業部営業グループマネージャーの上野さん、光学・電子映像商品開発センター技術マネージャーの芦田さんのお二人にお話をうかがいました。

「赤」が写る、その理由

ロール:天体望遠鏡メーカーのビクセンで営業を担当しつつ、星空写真カメラマンとしても活動しています、成澤こと通称“ロール”と申します。今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。

上野さん、芦田さん:よろしくお願いします。

ロール:富士フイルムさんの研究拠点にうかがうことができて、今、すごく胸がいっぱいなんです。ちゃんと質問できていない場合は、どんどん突っ込んでくださいね。

上野さん、芦田さん:(笑)

ロール:さっそくなんですが、御社のデジタルカメラでは、星空写真を撮影した際に写りにくいと言われている「赤色」が、とてもよく写りますよね。 たとえば、こちらの「M8干潟星雲」ですが、通常は白く写ってしまう部分が、御社のカメラで撮影すると発色があきらかに違います。この理由ってズバリ何ですか?

芦田さん:いきなり、本題からですね(笑)。 星空写真における「赤色」、Hα線とよばれる656.28ナノメートルの波長に対して、われわれのカメラの感度が高いということになるかと思います。
もう少しお話しますと、人間が見ることができる光、いわゆる可視光というのが、だいたい380~780ナノメートルとされていますが、人の目の感度、いわゆる等色関数などからするとざっくり400~700くらいです。656.28ナノメートルの波長のHα線は700より短いですが、可視光の領域の端のほうで、見えにくい波長であると言えます。更に実際の星の光は微弱ですし。

ロール:そうですね。端にあるためか、Hαの領域は多くのカメラではIRカットフィルターでカットされていますよね。だから、「赤色」が写らない。

芦田さん:はい。 でも、われわれのカメラでは、カットを完全にはしていないのです。656.28ナノメートルの波長を残しています。

ロール:えっ、そうなんですね。 それはなぜ残してあるのですか?

芦田さん:それは、星空写真を撮影される方のためです。

ロール:えええっ、そうなんですか! そのためだけに?

芦田さん:そうなんですよ、そのためだけに(笑)。 われわれは、2002年に「Finepix S2-Pro」というデジタルカメラを発売したんですが、「Finepix S2-Pro」ではHαの領域を完全にはカットせず残しました。結果として、星空撮影をされる方から高い評価をいただきました。 そのお声があったので、そのように使っていただけるのであれば、われわれとしてもこの領域を意識して残していこうというで設計が引き継がれ、今日に至っています。

ロール:そこまで狙って取り組まれているとは考えもしませんでした。ずっと星空写真を視野に入れて設計されていたんですね・・・。撮影する側としてはたいへんに嬉しいお話です。 でも、多くのカメラがカットしている領域を、あえて残しているということに問題はないのでしょうか?

芦田さん:はい、もちろんあります(笑)。 多くのカメラがカットしているのは当然理由があって、人間の目で見える可視光の範囲とはいえ、赤外域(780ナノメートルよりも長い波長域)に近いHαの波長を残す結果、「色転び」と言いますか、紫色のものが、やや赤紫色がかって写ってしまう傾向がでるのです。ただ、その一方で、Hαを完全にカットすると紫色が青紫色に転んでしまうこともあり、そのあたりは非常に判断が難しいですね。

作例:北アメリカ星雲とサドル付近の散光星雲


使用機材 FUJIFILM X-T2,XF50mm F2 R WR
VIXEN 星空雲台ポラリエ、ポラリエ用ステップアップキット
撮影データ ISO3200、SS60秒、f3.5、WB:オート
ポラリエ星追尾モードで追尾撮影
Photoshop CCで8枚を加算平均合成、画像処理
撮影 株式会社ビクセン 成澤広幸

星空写真・天体写真は非常に淡い被写体のため「JPEG一発撮り」で表現するのは大変難しいです。そのためRAWで撮影し、PCソフトなどで星雲や微光星の強調処理をするのが一般的でした。しかしながら、「そもそも写っていてない」Hα領域の赤い色などはどれだけ画像処理をしてもあぶり出すことはできません。そのため、天体撮影に特化した機材を使ったり、この領域の透過率をアップさせる改造を施したカメラを使うことが通例でした。
Xシリーズ最大の特徴は、そういった専用機材を使わずとも「Hα領域の表現がしやすい」写りをすることだと思います。

波長をどう扱うべきかを常に考える

ロール:2002年のFinepixS2-Proで、Hαの領域を完全にはカットしなかったとのお話ですが、そもそもその時にカットしなかった理由はあるのですか?

上野さん:2002年当時は、まだ明確な理由や目的があって、カットしなかったわけではないのかもしれませんね。ただ、われわれは、光のどの波長をどのように扱うべきかということを、フィルム製造を通じて長年研究をしてきています。
例えば、フィルムで言うと、「昔の銘柄のフィルムほど星がよく写る」という説があるんですよ。正確に言うと、新しいフィルムほど正しく綺麗な色再現を実現するためにフィルムの各分光感度の重なりを出来るだけ少なくするという改良をフィルムに対して実施した結果、Hαのあたり、つまり星の色が写らなくなった、ということなんですけどね。
僕はずっとフィルム部門にいたので、お客様から「星が写らない」という問い合わせがあると、いつも「できるだけ古い(昔の銘柄)フィルムを探して使ってください」とお答えしていました(笑)。
フィルムの時代から、われわれは光というか色の波長の扱い方を考え、“最適なおとしどころ”を研究し続けていて、そのノウハウの蓄積がある。フィルムメーカーが作るデジタルカメラということで、われわれの色に対する考え方は、他メーカーとはやや異なる部分があるのかもしれません。その結果として、Hαの領域を完全にはカットしていないのでしょうね。

ホワイトバランス、“画”へのこだわり

ロール:少し話題がかわりますが、私は星空写真教室の講師をする機会があるのですが、その際に生徒さんの作品データを提出してもらい、講評したりもします。そこでいつも思うのですが、御社のカメラで撮影された作品のホワイトバランスが、たいへんすばらしいのです。外灯の影響など受けてホワイトバランスが大きく崩れている作品も多いのですが、御社のカメラで撮影された作品は、夜空がニュートラルグレイに近い、正しいホワイトバランスになることが多い印象があります。この技術について、教えていただけますか?

芦田さん:カメラのAWB(オートホワイトバランス)がうまく当たっているということですよね。ここは、われわれもずっと苦労していて、「100%当たります」ということは今でも無いのですが、改良を重ねることで、かなり高い精度で正しくホワイトバランスが設定されるようになっていると思います。

上野さん:われわれのAWBは、マニュアルではできない、極めて細かなパラメーターで動いているんですよ。通常、オートと言えば、マニュアルでやることを自動的にやってくれることで、逆に言えば、オートでできることはマニュアルでもできるはずですよね?例えば撮影のオートであれば、同じ絞りとシャッタースピードを、マニュアルで再現することは可能。しかし、弊社のカメラに搭載されているAWBは、同じことをマニュアルではできません。画像に対して色のチャートを単純にマニュアルでズラすだけでは同じにはならないのです。マニュアルでは追いつけない、極めて細かな調整でホワイトバランスをとっています。 AWBに関しては私の専門ではないのですが、この話を開発担当者に聞いてからは、自分のカメラの設定をAWBから動かすことはしなくなりました(笑)。

ロール:AWBに関しても、フィルムメーカーとしての経験が活きているのでしょうか?

上野さん:ホワイトバランスは、カメラで撮影したデータが、ひとつの作品、“画”になる際の基礎となる大切なものです。デジタルカメラの時代になるまで、カメラメーカーさんはずっとカメラを作ってこられましたが、“画”を作ることはなかったと思います。われわれ富士フイルムはフィルムメーカーですから、カメラと同時に“画”を作ってきました。この知見は、われわれにとっての大きな武器だと思いますね。

作例:WB比較

左の作例は他社製一眼カメラで撮影したアンタレス付近の星空で、右の作例は富士フイルムXシリーズで撮影したもの。どちらもJPEG一発撮りで画像処理をしていない作例です。左の作例は「色転び」をしていて背景の夜空の色がマゼンタがかっているのに対し、右の作例は背景の夜空の色が自然なニュートラルグレーに近い色で表現されている。色転びが起こってしまった場合、自然な色を表現するには少し高度な画像処理テクニックが必要です。撮った時点でホワイトバランスが整っていると後処理が非常に楽になります。
また、富士フイルムXシリーズの評価として「色がきれい」という声をよく聞きます。これはもう少し掘り下げると、ここで紹介している「オートホワイトバランス(AWB)の優秀さ」についての評価ではないかと思います。屋内・屋外で様々な色 の光が飛び交う中で、人間が見ている「色」を忠実に表現できるのかどうか。この画作りの性能に関しては昼夜を問わず発揮されているようです。

ノイズとは何か?ノイズとのつき合い方

ロール:天体写真撮影の場合、大きな問題となるのがノイズです。御社のカメラは高感度に設定してもノイズが少ないという評判をよく聞きますが、ノイズについてはどのようにお考えですか?

芦田さん:技術的なお話をすると、極力きれいな光が入ってくるように、センサー感度を向上させたり、できるだけ余計なノイズが載らないように基板を作ったりという改良は常に続けています。またノイズリダクションのための画像処理アルゴリズムの研究・開発なども進めています。ディテールは残しながらもいらないノイズは極力なくすことを、ハードとソフトの両面から追求しています。

上野さん:「ディテールは残しながらいらないノイズはなくす」という話が出ましたが、誤解を恐れずに言えば、われわれのカメラはノイズを極端に少なくすることを目指してはいないのです。そこに重きを置いていません。言い換えますと「ノイズが少ないことが何よりも良いことだ」という価値観ではない、ということです。
作品のディテールを作っているノイズは残し、余計なノイズだけを消すことが大切だと考えています。そうなると、どのノイズが作品のディテールを作っていて、どのノイズが邪魔なのか、そこを判断することがもっとも技術的に重要になってきます。 良いバランスでディテールを作っているノイズが残ることで、その作品の見た目はとても心地よくなり、その心地よさが「ノイズが少ない」という言葉で評価されているのかもしれませんね。

作例左:さそり座 作例右:冬の大三角とオリオン座


作例左:さそり座

使用機材 FUJIFILM X-T2,XF35mm F2 R WR
VIXEN 星空雲台ポラリエ、ポラリエ用ステップアップキット
KENKO PRO1DソフトンA(W)
撮影データ ISO1600、SS120秒、f4、WB:オート
ポラリエ星追尾モードで追尾撮影
RAW FILE CONVERTER EX2.0で画像処理
撮影 株式会社ビクセン 平井智

作例右:冬の大三角とオリオン座

使用機材 FUJIFILM X-T2,XF16mm F1.4 R WR
VIXEN 星空雲台ポラリエ
撮影データ ISO6400、SS30秒、f2.8、WB:オート
ポラリエ星景撮影モードで追尾撮影
Photoshop Lightroomで画像処理
撮影 株式会社ビクセン 成澤広幸

「①感度を上げて短い露出で撮影するのと、②感度を下げて長い露出するのはどちらが低ノイズか?」という質問をよくされます。答えは「②感度を下げて長い露出をする」ことがより低ノイズです。地上風景を重要視しない星空・天体写真の場合は②で撮影することが多いですが、地上風景を含める星景写真の場合だと、露出時間に比例して星が線になって流れてしまうため、①で撮影することが多いです。Xシリーズのように、高感度撮影時もディテールを残して星空を表現できることは撮影の幅を大きく広げてくれます。
ちなみにどのくらいの露出で星が流れるのか?の判断基準には「500rules(500÷35mm換算の焦点距離)」という考え方があります。あくまで目安としてですが、この計算式の答えよりも長く露出をする場合は星空雲台ポラリエなどの赤道儀を使うと良いでしょう。<さそり座>の作例は、このルールに則ると約9秒以上の露出からどんどん星が流れていってしまうため、ポラリエを使って星追尾モードで追尾撮影を行っています。<冬の大三角とオリオン座>の作例は、約20秒以上の露出からどんどん星が流れていってしまうため、ポラリエの星景撮影モードを使って少しだけ追尾撮影を行い、星が流れてしまうのを最小限に抑えています。

星空を撮るためのレンズ

ロール:これまでカメラ本体のお話をうかがってきましたが、星を撮るためのレンズとして、おすすめのものはありますか?

上野さん:私自身があまり星を撮らないので申し訳ないですが(笑)、星を撮る方からの評価が高いのは、XF16mm F1.4 R WRですね。弊社のレンズ、星を撮影される方からは絞り開放時に少し「コマ収差」が出る傾向にあると言われることがあるのですが、XF16mm F1.4 R WRはこの「コマ収差」が少ない。それから、周辺減光が極めて少ないことも評価いただいています。空に向かってのピント合わせがやりやすい構造になっているというお言葉もいただきますね。

ロール:今後、星の撮影にむいたスペックのレンズを発売される予定はありますか?

上野さん:これからのレンズの展開のひとつとして、超広角ズームの開発を予定しています。この中に、星を撮影されるみなさんのご意見、ご要望を盛り込んでいければと考えています。

星を撮るみなさんへ

ロール:本日はどうもありがとうございます。たいへん貴重なお話をうかがうことができまして、最初から最後まで、ずっと胸がいっぱいでした。 最後に一言いただいてもよろしいですか?

芦田さん:画質設計を担当している技術者として、星を撮影される方にもぜひ富士フイルムのカメラを使っていただきたいという想いがあります。今回、われわれのカメラが星の撮影に使えるというお話からこのようなコラボレーションになって、とてもうれしいです。Hαの領域をずっと大事にしてきた甲斐がありました。(笑)
これからも星を撮影されるみなさんに使っていただけるカメラをつくっていきたいと思いますので、良い点悪い点を教えていただけるととてもありがたいです。今後ともよろしくお願い致します。

上野さん:撮影の講師をしていると、「いい写真を撮るコツはなんですか?」と聞かれるのですが、「カメラを毎日持ち歩くことです」と答えます。 毎日持ち歩いていただくには、カメラは小さくあるべきだし、軽くあるべきだし、星でも風景でも人でも、すべて一台できれいに撮影できるのが理想だと考えています。そういうカメラをつくっていきたいですね。 そして、撮影された方には、ぜひそれをプリントして「写真」という形にしてもらいたい。SNSで1万人に“いいね!”をもらうのもすばらしいことですが、「写真」という形にして、作品に直接に触れてもらい、100人を感動させることもとても大切だと思っています。われわれのカメラで星空を撮影していただき、「写真」にして楽しんでいただきたいです。

上野様、芦田様、どうもありがとうございます。

ビクセン 開発者インタビュー

星景写真撮影用の天体追尾装置としてこれまでに高い評価を受けている、ビクセンの星空雲台ポラリエ。2016年12月、さらに望遠レンズを使った星空撮影に対応するため、搭載可能重量の大幅アップを可能にする「ポラリエ用ステップアップキット」を発売しました。

今回は、「ポラリエ用ステップアップキット」の開発に至った経緯からその性能までを、プロジェクトの中心となった2名、営業部の成澤(通称ロール、ビクセン営業担当であり、星空撮影講座の講師なども担当する星空写真家)と、研究開発部の加島にインタビューしました。

まず、「ポラリエ用ステップアップキット」の開発に至るまでを教えてください

ロール:2016年の春ごろ、加島さんに相談をしました。 私が、カメラ販売店で星空写真撮影講座をした際に、参加者の方から、広角レンズを使った星景写真だけでなく、望遠レンズを使った星の撮影もしてみたいという声を多くいただくようになっていました。そこで、ポラリエの搭載可能重量をアップして、望遠レンズが付いたカメラも載せられるようにできないかと。

加島:もともと、ポラリエの搭載可能重量をアップするというアイデアは、ポラリエ開発段階から検討項目としてあげていました。しかし実際には、2016年まではポラリエに関して、強化パーツなどの発売は行っていません。もちろん、その間にもさまざまな試作品製作などは行い、研究はしたんですよ。 ただ、性能は出せるものの、なかなか価格的にも評価いただける製品開発が難しい状況でした。なので、2016年までは研究部から、ポラリエのための強化パーツ類が外にでることはありませんでしたね。

そのような状況から、今回「ポラリエ用ステップアップキット」が発売される契機となったのは、何ですか?

加島:ひとつは、現場からの強い要望です。つまり、成澤さんから、講座に参加される方からの強い要望がたくさんあると聞いたからです。

ロール:はい、実際の講座の際には、サードパーティによる強化パーツを紹介はしていましたが、やはりメーカー純正の製品をぜひ用意してもらいたいという、ありがたい声をたくさんいただきました。それを加島さんには伝えました。

セミナー風景

星空写真撮影講座の様子。星空撮影そのものを訴求しつつ、ビクセン製品を認知してもらう活動を行っている。「ポラリエ用ステップアップキット」はこうした活動を通して、ユーザーから直接寄せられた要望をもとに商品化されました。

加島:もうひとつ、ポラリエを開発した頃とは違った状況がありました。それは、AP赤道儀シリーズが発売されていたことです。AP赤道儀は、主要な稼動部をモジュール化するという新しい設計思想に基づいていて、各パーツに高い汎用性があるんです。なので、このAP赤道儀のパーツをうまく使うことで、ポラリエの強化パーツを作れるのではないかと考えました。 そして実際、AP赤道儀のパーツ類を使うことで性能と価格に一定のバランスを取ることができて、今回の「ポラリエ用ステップアップキット」発売となりました。

ロール:今回の「ポラリエ用ステップアップキットは、AP赤道儀のパーツを使っているところもあるんですが、一方で、カメラユーザーに応えるこだわりも持たせたつもりです。例えば、「スライドプレ雲台プレートDD」というパーツは、アルマイト製です。私はカメラマンとして活動もしているので、アルマイトの質感というか、カメラと組み合わせた際の相性のようなものを感じます。なので、このパーツは塗装するのではなく、アルマイトそのものを使うようにお願いしました。

加島:アルマイトではなく、他の金属に塗装のほうが、パーツとしては安くできるんですけどね。ここは、成澤さんの熱いこだわりに押し切られました(笑)。

そして「ポラリエ用ステップアップキット」は発売となったわけですが、発売後のユーザーの反応はどうでしたか?

ロール:発売後、一番多く質問をいただいたのは、今まで搭載可能重量が2kgだったポラリエが、どうして後付のキットをつけるだけで6.5kgまでアップできるのですか?というものですね。

加島:それは、搭載可能重量が6.5kgにアップしたことよりも、まず、なぜポラリエ単体だと搭載可能重量が2.0kgなのかをご説明したほうがよいかもしれませんね。
ポラリエの開発コンセプトのひとつは、小型軽量です。ポラリエに自由雲台を1つ付け、その上に広角レンズのついたカメラが載って、それだけで高い精度の追尾によって星景写真が撮れること。
このコンセプトは、実は機械的にはかなり無理をさせる必要があります。回転する軸に対して、カメラ側だけが重いという、非常にアンバランスな状態なんです。
もしこれが、バランスがとれた状態、つまりカメラと反対側にも同じ重さのウエイトを付けられれば、非常に小さな力でも動かすことができます。ちょうど、“やじろべえ”が、ほんの少し力を加えるだけで、大きく動くのと同じ原理です。
しかし、ポラリエは“やじろべえ”のようなバランスのとれた状態にはなく、つねに機械の稼動部に大きな負荷を強いる、アンバランスな状態なんです。

ポラリエ用ステップアップキットを換装した星空雲台ポラリエ

組み合わせ例 星空雲台ポラリエ(WT)、ポラリエ用ステップアップキット、
APフォトガイダー用ウエイト軸、バランスウエイト1kg、クイックリリースクランプセット、
カメラ FUJIFILM X-T2
レンズ XF100-400mm F4.5-5.6 R LM OIS WR

ロール:そのアンバランスさと引き換えに、小型で軽量にできたということですね。

加島:そうです。 バランスを取るためのウエイトなどがない分、ポラリエはコンパクトですし、とても軽量です。

加島:そしてもうひとつ、ポラリエは、天体撮影初心者の方、これまでカメラは使っているけど天体は撮影したことがないという方とって、使いやすいことがコンセプトになっています。そのため、ポラリエのデザインは、従来の小型赤道儀の形ではなく、カメラの形に近いデザインです。また、ボディに北斗七星やカシオペア座がデザインしてあるのも、親しみやすさを持っていただくことを考えました。 そうした工夫のひとつとして、工具をつかわないでも使えるという設計にこだわりました。

ロール:確かに、ポラリエは箱から出して、三脚、自由雲台、そしてカメラを普通に取り付ければ、そのまま使い始められますね。

作例左:バンビの横顔とM8・M20 作例右:M42 オリオン大星雲


作例左:バンビの横顔とM8・M20

使用機材 FUJIFILM X-T2
SIGMA APO MACRO 150mm F2.8 EX DG HSM
マウントアダプター
VIXEN 星空雲台ポラリエ、ポラリエ用ステップアップキット
撮影データ ISO3200、SS60秒、f4、WB:オート
ポラリエ星追尾モードで追尾撮影
Photoshop CCで7枚を加算平均合成、画像処理
撮影 株式会社ビクセン 成澤広幸

天の川沿いの散光星雲は絶好の星空撮影スポット。「バンビの横顔」は小鹿が横を向いているように見えることから特に人気のある被写体となっていて、一枚撮りだけでもゴージャスな写りをしてくれる。この被写体の位置は、ビクセンの無料アプリ「Nebula Book」で調べることができる。

作例右:M42 オリオン大星雲

使用機材 FUJIFILM X-T2
XF100-400mm F4.5-5.6 R LM OIS WR
VIXEN 星空雲台ポラリエ、ポラリエ用ステップアップキット
撮影データ ISO6400、焦点距離600mm(35mm換算)、SS124秒、f7.1、WB:オート
ポラリエ星追尾モードで追尾撮影
Photoshop Lightroomで画像処理。加算平均合成なし。
撮影 株式会社ビクセン 成澤広幸

冬の代表的な散光星雲です。オリオンベルトと呼ばれるオリオン座の三ツ星の下にあり、写真写りが良く双眼鏡でも淡い姿を確認することができます。星空撮影に興味のある方なら、一度は撮りたいと思うのではないでしょうか。「ポラリエ用ステップアップキット」を使用してバランスをとることで、このような望遠撮影も可能になります。

加島:そうなんです。各パーツの取り付けなども、ポラリエは工具を必要としません。その手軽さを重視しました。 でもドライバーなどの工具を使わないということは、つまりは人間の指の力だけでできる締め付けの限界が、ポラリエの限界になってしまうんです。

ロール:小型軽量とするためにアンバランスにしてあって、使いやすさ優先で工具を使わないことから締め付けの力の限界も低い。これが、ポラリエの搭載可能重量が2kgまでという理由ですか?

加島:はい、そのとおりです。 つまり、裏を返せば、アンバランスではなくバランスを取るようにして、締め付けも工具を使うようにすれば、ポラリエ自体のポテンシャルは、2kgよりも上にあったのです。

ロール:なるほど。今回、「ポラリエ用ステップアップキット」はウエイトを使って、バランスを取ることが可能になっていますね。ポラリエ用マルチ雲台ベースの取り付けもビスをドライバーを使ってとめることになっているから、ポラリエが本来持っている、機械的なスペックをフルに活用しているということですね。

加島:はい。搭載可能重量が2.0kgから6.5kgになったのは、突然にポラリエのパワーが上がったとかいうことではなく、もともとのポテンシャルを引き出すためのパーツが製品化されたとお考えいただければと思います。それが今回発売した「ポラリエ用ステップアップキット」です。

カメラの祭典「CP+」の会場で参考出品されたスケルトン仕様のポラリエ(非売品)。外観はコンパクトだが、中身は大型赤道儀と同様の機構を持っています。すでに備わっていたポテンシャルを最大限に引き出したのが「ポラリエ用マルチ雲台ベース」であり、「ポラリエ用ステップアップキット」でした。

今回のステップアップキットによって、ポラリエのポテンシャルが発揮できるようになったとのことですが、この展開は予想されていたのでしょうか?

加島:具体的にどうなるかまでは、ポラリエの開発段階では考えていませんでした。しかし、ポラリエは小型ではありますが、軸の部分はかなりしっかりとした構造を採用しています。それはやはり、将来どうなるかはわからないにしても、基幹となる部分はしっかりと作りこんでおこうということにしました。
ポラリエには、SXP赤道儀にも採用している大きなベアリングが入っています。このあたりはコストにはねかえるので、開発当時はあれこれと揉めもしましたが(笑)、ビクセンの研究部のこだわりは通しました。

「実際の撮影シーンはどんな感じなの?」というユーザーの疑問に応えるために、制作した動画。FUJIFILM X-T2とVIXEN星空雲台ポラリエを使って解説しています。この動画をセミナーで紹介すると「思っていた以上に暗いところで撮影してるんですね」と驚かれます。 淡い星空の撮影は①自分のいる場所が暗いこと②レンズを向けた先の空が暗いことが重要です。

ここからは、「ポラリエ用ステップアップキット」のこだわりポイントを教えてもらえますか?

ロール:私は、まずは「スライド雲台プレートDD」ですね。さきほど、アルマイト製にこだわったという話も出ましたが、それだけではないんですよ。このパーツは、既存の「スライド雲台プレート」というパーツでも問題ないところを、あえて、新しいものを作りました。その理由は、ポラリエの本来の良さである、コンパクトで携帯性に優れているということにこだわったからです。 何をしたかというと、できるだけ小さなウエイトで済むように、スライドバー自体を長くすることにしました。でも、あまりバーを長くするとやはり携帯性は落ちるので、ポラリエユーザーにベストと思われるサイズをあれこれ試作してもらって探り、製品化しました。

スライド雲台プレートDD

「スライド雲台プレートDD」を使うことで、ポラリエ用極軸望遠鏡PF-Lを取り外すことなく素通しのままで使用することができるようになる。極軸合わせの再設定に便利な設計になっている。

加島:そもそも、この部分をスライド式のプレートにすることで、雲台自体をスライドさせてバランス調整ができるようなりました。これも、できるだけウエイトなどのパーツを少なく、軽くするための工夫です。
「スライド雲台プレートDD」は、天体撮影を現場の意見を成澤さんが持ち帰ってくれて、それを試作に反映して、また撮影現場に持ち込んでもらってと、なんどもやりとりした中から生まれた製品ですから苦労も多かったですね(笑)。
それから、この「スライド雲台プレートDD」に取り付けられる、「クイックリリースクランプセット」も、新しい試みをやっていますね。

ロール:「アルカスイス規格」に準拠したクイックリリース機構を採用しましたよね。

加島:はい、そうです。研究部では、常にいろいろな新しいことに対してリサーチしながら、何をどのように自社製品に反映しようかと考えています。今回、ちょうどこの「ポラリエ用ステップアップキット」の製品化を考えているタイミングで、まったく別な案件だったんですが、アルカスイス規格の採用についても検討していたんですよ。そこで、ちょうどいいタイミングだから、ステップアップキットの中に、アルカスイス規格に準拠したものを使ってみてはどうかということになりました。

ロール:この「クイックリリースクランプセット」は、自由雲台を使うよりもはるかに駆動部分とカメラを近づけることに成功したと思います。ここは、私はかなりこだわったところです。

クイックリリースクランプセット

「クイックリリースクランプセット」を使用することで低重心で望遠レンズを取り付けることが可能となり。安定した追尾撮影を行うことができます。

「クイックリリースクランプセット」に付属の「プレートホルダー」のみを自由雲台に取り付ければ、縦構図・横構図を同軸で変更できるようになり、星景写真撮影時の構図決めが楽になります。

加島:そうですね。成澤さんからのリクエストもあって、「クイックリリースクランプセット」はできるだけ薄く作ることにこだわりましました。結果、製品自体がコンパクトで携帯性が良いですし、取り付けた際にカメラが駆動部分に近いということは、バランスを取るためのウエイトも少なくて済むし、メリットは大きいですよね。あと、この「クイックリリースクランプセット」をネジ2本でとめることにしたのも、評価いただいているようですね。しっかりと固定されているので、アングルを決める際にズレることがなくて良いとのお話を聞きます。

製品開発に関わるいろいろなお話、ありがとうございます。最後に一言お願いします

加島:ポラリエで、初めて天体撮影を経験したという方も多いと思います。私もずっと天体写真撮影を趣味にしていますが、最初に星が写ったときの感動をずっと忘れずに、この趣味を続けていけたらいいなと思います。
天体撮影も奥が深いので、いろいろと撮りはじめると、苦労したり、嫌になったりすることがあるかもしれませんが、そんな時は、最初の感動を思い出して、楽しく撮影を続けていただきたいです。みなさんも、最初の1枚の感動を忘れずに、ずっとこの趣味を楽しんでください。

ロール:今回の「ポラリエ用ステップアップキット」を企画した際、ハードだけでなく、何を撮影したらよいのかがわかるソフトも同時に開発する必要があると考え、「Nebula Book」という携帯用アプリを開発しました。撮影しやすい天体、あるいは撮影したら見栄えのする天体がどの位置にあるかが、一目でわかるアプリです。ぜひ、このソフトと、ポラリエというハードを活用して、天体写真撮影を楽しんでいただきたいと思います。そしてその先にある、天体望遠鏡を使ったディープスカイの撮影までステップアップしていただけたらと思います。
この他にも、ビクセンでは星空撮影カメラマンから高い評価を受けている「天体観測用ライトSG-L01」や一年を通して起こる星空撮影の大敵・レンズ曇りを防ぐ「レンズヒーター3 60」などの撮影支援機材や、公式youtubeチャンネルの動画コンテンツでユーザーをサポートしています。 これから星空撮影に挑戦したい方には ぜひこれらの商品・コンテンツを使って快適に撮影を楽しんでいただきたいと思いますね。

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